flotsam books（フロットサムブックス）

『THE PAST EXISTS』は2022年6月にMITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERYで開催された小林健太の個展にて発表された作品群をまとめた作品集です。同展覧会で小林はこれまで『EVERYTHING』シリーズで発表してきた写真の中からポートレイトを中心に選び展示しました。

過去について、小林は記憶を振り返る際の角度や質によって常に変形し続けるフレームのようなものと語っています。写真は常に過去の時間を写したものですが、そこに画像編集を施し展示レイアウトを決定していくことはその時点での変化のバリエーションであり、現在の自身にふさわしい表現の探求でもあります。また、これらの作品群は自身の20代への餞別のようなものであり、二度と再演されることのない舞台への名残惜しさであるとも語っています。

本書ではそのような過去から現在へとつながる時間の積み重ねを、小林の制作過程において欠かすことができないPHOTOSHOPのレイヤー機能を援用し、ページをめくるごとに写真の層が重なっていくレイアウトで表現しました。それぞれの時間が結びつき一様ではないイメージが立ち上がる在り方を、本という形式の中で試みています。

ドキュメンタリー写真の巨匠の一人であるTom Arndt（トム・アーント）が、このモノグラフのために自身のアーカイブを公開しました。
1970年から2015年までの半世紀にわたるアメリカの歴史が、ロードムービーのように導かれるように彷徨いながら写真1枚1枚が物語を語ります。
社会学的かつ共感的な視線のもと、トム・アーントは、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、そして彼の故郷であるミネアポリスといった大都市で、中流階級、農業界、退屈な郊外、慌しい街角に住む女性や男性の生活の断片をとらえています。

ライトアップされた看板、窓の反射（写真家の全作品に共通するテーマ）、実物から撮影されたシルエット、これらはすべて写真のイメージを構成するディテールです。
光と建築のラインは、時代を超えたアメリカのアイコンとして、力強いイメージを構成しています。

あの少女たちをもう一度。そして永遠に。
「ヴァージン・スーサイズ」の名シーンの数々をソフィア・コッポラ自身がセレクト。
イノセントなブロンド姉妹の魅力を記憶の底に閉じ込める、永遠の一冊。（本書帯より）

写真家 渡部雄吉（Yukichi Watabe）が、昭和３３年（1958年）に茨城県水戸で発生したバラバラ殺人事件の捜査にあたる刑事に密着した作品をまとめた写真集「張り込み日記」です。
刑事の二人は、警視庁捜査１課の刑事と、事件が発生した茨城県警から派遣された刑事。戦後の空気が色濃く残る昭和の町並みを背景に、二人が聞き込み、張り込みと東京の下町を歩き回る姿が、現在の私たちにはとても斬新な世界に映ります。
この作品は、撮影された年に雑誌で発表されましたが、それ以降、大きく取り上げられる機会はなく、まさに知る人ぞ知るといった作品でした。
２００６年にイギリスの古書のディーラーが、神保町で１２０枚にものぼるこの作品のプリントを発見したことを切っ掛けとし、２０１１年にフランスから写真集が発売され、世界中で評判になりました。

フランスの写真家、マグナムフォトのメンバー、Gilles Peress（ジル・ペレス）の写真集「Farewell to Bosnia」です。
この作品は、1993年3月から9月までの3ヶ月半、ボスニアのトゥスラ、ボスニア中央部、モスタル、サラエボを中心に制作されたものです。

日本の写真家 中村健太（Kenta Nakamura）の初写真集「銀河に埋める」です。
中村がこれまで撮ってきた写真群を「時間という概念からの解放」というテーマで再構築しています。
「宇宙の果てや、異世界のような場所に存在する写真集を作りたい」という考えから作られた本書からは、セットアップやスナップなど手法は様々ながら、写真家の人が好きっていう気持ちが伝わってくるようだ。

日本のフォトグラファー Taka Mayumiの初写真集「恋するとりこ」です。
20年以上に渡るキャリアの中で撮られた写真群の中から選ばれた、人、風景、ファッション、動物、花など自由に並べられた作品は心地の良いシークエンスを生み出し、優しく美しいイメージの洪水の中に誘い込んでくれるようです。

2005年から2006年にかけて、Jim Goldberg（ジム・ゴールドバーグ）は、新しいミレニアムの始まりに、移住を探求するプロジェクトの一環としてウクライナを訪れました。
新しい資金調達のための出版物「Another Life」のために、ゴールドバーグはウクライナの作家で映画制作者のIryna Tsilyk（イリナ・ツィリク）とともに、当時の作品を再考しました。

Jack Lueders-Booth（ジャック・ルイダース＝ブース）の「THE ORANGE LINE」は、ボストン公共交通のオレンジライン（1901年に建設された古く、ガタンゴトン鳴る高架鉄道）の南ルート沿いに住み、働いていたコミュニティのアーカイブとして、丁寧に制作された作品です。
この老朽化した鉄道の振動音、見苦しさ、犯罪率の増加、効率の悪さは、鉄道が通っていた地域の不動産価値を低下させ、その結果、低所得者層向けの住宅が不足するようになったのです。

1985年、オレンジラインの南側が取り壊され、ルートが変更されることになり、家賃の上昇、移住の可能性、ボストン都市部への公共交通機関の喪失という懸念が生まれた。
変化は目前に迫っており、住む場所を失う可能性が高いと思われたのです。

「これらの写真は、ボストン・オレンジライン南側の沿線に住み、働いていた人々の記録を残すために作られました。- ジャック・ルイダース＝ブース

イギリスのアーティスト、Jem Southam（ジェム・ソウザム）は、過去4年の冬、エグゼ川の氾濫原にある短い川岸を何度も訪れています。夕闇が迫る頃、あるいは夜明けの光が集まる頃、彼は立ち尽くし、それぞれの冬がどのように過ぎていくかを見守ります。
夕方、日没を過ぎると、白鳥、ガン、カモが安全な夜を過ごすために川へやって来ます。朝、鳥たちは目を覚まし、羽繕いをし、餌を食べ、新しい一日のために集まります。

このような些細なドラマが何千年にもわたって繰り広げられ、世界が回転し、新しい日が明けるたびに、その光景が繰り返されます。本書では、ジェム・サウサムは周囲の劇場空間の微妙な変化とドラマを写真に記録し、物語ります。